医学、生物学などの生命科学は専門内部での議論に留まることなく、その成果が社会的、思想的に外挿されることで社会的波及性をもつ。本研究は科学内在的に当時の科学の実質的内容を追いかけると同時にそれらの成果が当時の社会の思想的側面にどのように波及していったのかを具体的に調査することを目的とする。この問題設定の霊感源は筆者が長く研究を続けてきたフランスのエピステモロジーに根ざすものである。より具体的には次の主題をもつ。 a)ル・ダンテクに典型的に見られる黎明期免疫学と進化論との特殊な混淆。メチニコフの免疫学を外挿した生命論の研究。 b)ベルナール、ブラウン=セカ-ル、グレイを中心にした内分泌概念史の分析。 c)パストゥールを中心にした黎明期の細菌学の思想的分析。 この中でル・ダンテク論は既に発表した(「科学主義者の生物学」)。メチニコフについてはほぼ資料収集をおえた。 また内分泌概念史は必要資料をほぼ収集しおえ、後は集中的な読解を残すのみになっている。 なお、若干時代は現代寄りになるが、精神薬理学とその周辺の問題を巡り、二本の論文を執筆した(「化学物質の産婆術」「ホモ・ホリビリス」)。
|