研究概要 |
当初の研究計画に沿って,アルキメデスの主要著作について個々の議論で利用される命題,前提を特定する作業を行なった.以前にパッポス『数学集成』第7巻で同種の作業を行なっているので,大半の部分は問題なく作業が進行した. しかしアルキメデスの著作に特有の問題もいくつか発生し,最終的なデータベースの形式についても検討が必要なことがわかった.まず,アルキメデスは時として細かい議論を大胆に省略することがあり,そこでの論証過程を再現しようとすると,かなり大幅な補足が必要となるが,その補足は一意的ではない.論証構造をデータベース化するにあたっては厄介な問題である. また,分析は一つの文ごとに行なっているが,アルキメデスではパッポスより一文がかなり長く(2倍から3倍程度),同様の議論の分析でも,パッポスでは細かく,アルキメデスでは大雑把になりやすい.これは作業者の心理的な問題である.自明に見える文であっても,1つの文に1つの適用命題を割り当てるまでは詳細に論理的分析を行なう.しかし同じ議論が長い文の一部として現われると,文の他の部分に目を奪われ,そこまで詳細な分析をせずに終わってしまうことが多いのである.文よりももっと細かい単位(意味の切れ目で文をさらに細分するなど)で分析を行なうことも検討すべきであろう. これらの問題については,次年度に予定しているアポロニオスの著作の分析を待って最終的に判断する予定である.
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