研究概要 |
今年度は、1930〜40年代を中心に調査を設定し、(1)生命起原論の一つであるオスボーン著『生命の起原と進化』(原著初版1918年、邦訳31年)と(2)『生命の起原』として知られるオパーリンの著作(原著1936年、英語訳38年)および、その邦訳に関する日本の反応を明らかにすることを試みた。 1.(1)については、特に訳者による解説や註記のないこと、フランス語訳者による序文を掲載することで著者の紹介、内容の解説に代えていることから、当時の日本の動物学者としてのオズボーン説評価については、その限りでは明らかでない。 2.(2)については、報告者のこれまでの調査の過程で、定説としての邦訳刊行(1941年)より以前、1939年に訳が出まわっていたという説があることがわかっており、それを明らかにすることから出発するべく、集中的な聴きとり、および資料探索による調査を行ったが、未だ不明である。 3.(2)について、1940年代当時、その反響が大きかったことは、つとに知られているが、今年度の調査での新資料の発見はない。 4.今年度の調査目標の範囲外の時期であるが、永井潜著『生命論』(1913)に、E.A.SchaferにるLife:its nature,origin and maintenanceが付録として邦訳されており、1918年代から生命の起原という問題に、日本の生物学界も無関心でなかったことがわかった。今後、これのその後の影響についても更に調査する予定である。 5.大阪および名古屋での調査によって1950年代の新資料を得ることができた。次年度以降の調査と併せて、その意味を明らかにしていく予定である。
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