生命の起原説についての日本の科学者の反応等について、今年度は、1950年代を中心に調べた。1.雑誌等の資料収集、2.当時の事情に通じている、あるいは生命の起原研究に関与した学者の聴きとり調査、の二つの方向から行うことを計画したが、2、については不十分であった。 50年代、生命の起原にかかわる出来事としては、1.生命の起原提唱者であるソ連のオパーリン来日(55、57年)、2.アメリカのS.ミラーによる仮想原始大気におけるアミノ酸合成実験(53年)、3.生命の起源国際シンポジウム開催(57年)がある。このうち、1については非常に多くの資料があり、オパーリン説が広範囲に関心をもたれたことがわかる。しかし、2の実験については、60年代以降になって非常に注目され、必ず教科書に記されるほどであるにもかかわらず、当時の日本の科学者たちがそれをどう受けとめたかについての資料は明らかでなく、今後の課題である。3.については、1との関連もあって、広い範囲で関心を持たれたことは、一般の週刊誌に関連記事があることからもわかる。 全体として、50年代前半については資料が乏しい。これは、55、57年のオパーリン来日を中心として非常に広い範囲で生命の起原の問題がとり上げられているのと対照的である。また、50年代前半の関心は、ルイセンコ説との関連でソ連の生物学という文脈で語られていることが多い。 学問的な観点からは、57年のシンポジウムへの赤堀四郎阪大教授(当時)らの参加、58年の、オパーリンの著作(57年)の石本真訳の刊行である。
|