本年度の研究は、主として理論的な研究を行い、実証的な研究に関しては予備研究的な作業を行った。 理論的な研究は、科学技術倫理としての環境倫理の枠組を構築し、その理論的な枠組を精緻化することであった。環境倫理学に関しては最近とみに尨大な文献の蓄積があるが、それを探索し、それらの文献を整理して、簡単なデータベースを構築して、今後の研究に役立てるようにした。また、民俗学や分化人類学の研究者との研究の交流を積極的に行い、従来展開してきた理論的枠組の精緻化を行った。その理論の詳しい内容は成果として発表した論文に詳しいが、ここでは簡単に要点だけを紹介しておく。「社会的リンク論」という理論的枠組である。その理論的な枠組では、人間と自然との関係性における、社会的・経済的リンクと文化的・宗教的リンクの二種類のリンクを分析的に剔出し、そのリンクの関係によって、人間と自然とのかかわりを実証的に分析しようとするものである。その時に、その社会的リンク論で論じるべき重要な要素として、技術論、所有論、流通論、を個別に検討してきたが、特に技術論が本研究と密接な関係がある。その要点は、社会的リンク論における、二種類のリンクが不可分な形で保たれたまま、人間と自然との全体的な関わりが可能になるような、科学技術のあり方というものが求められるべきであるということである。15EA03:実証的な研究の予備研究としては、捕鯨技術に関しての文献を探索し、それを解読してきた。また、それと同時に、捕鯨技術と文化に関して、すでに多くの研究の蓄積を持っておられる、国立民族学博物館の秋道智彌氏をはじめとする3人の研究者を招いて研究集会を行い、従来の研究の蓄積に関してのさまざまな教授を受け、また情報を得た。このような作業により、本年度は実際に実証的な調査研究を始める予定である。
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