科学義通理論としての環境理論の理論的研究の構想に関しては、単著『自然保護を問いなおす--環境倫理とネットワーク』の中で今までの研究成果をまとめ、本研究の今後の枠組みの基礎としたが、以下に記述するいくつかの事例の検討を踏まえて理論的にさらに展開している。特に、後述の諫早の事例で中心的な問題である、主たる生業以外の生業的営みであるマイナ-・サブシステンスに関する技術のあり方を巡って、科学技術論的、STS的観点を踏まえた環境倫理のあり方が本質的であることが分かり、その点の理論的深化が模索されている。 実証研究の方では、前年度の予備的調査を踏まえて、捕鯨技術を巡る問題を、東京の鯨類研究所の資料や、和歌山県の太地での実地調査を踏まえて考察したが、捕鯨技術に関しては、伝統的な網取り捕鯨技術から近代的なノルウェー式の捕鯨技術への歴史的転換に関しての歴史的史料の決定的な不足から、科学技術倫理や環境倫理に関しての本質的議論の事例としてはまだまだ歴史的研究の蓄積が必要であることが判明した。そのため、今回の基盤研究においては、理論的研究をより発展させるために、マイナ-・サブシステンスの技術が本質的な役割を持っている青森県や秋田県の白神山地における自然保護の問題や、長崎県の諫早湾における漁業技術や土木技術に関連して科学技術理論と環境倫理が交差する点においての文献調査や聞き取り調査を主とした実証研究を積み重ねることにした。その結果、マイナ-・サブシステンスの技術の特質が、近代技術と対比的な形で浮かび上がらせる事に成功した。また、「自然の権利」概念が、この問題に密接で本質的な関係を持っていることが判明し、その観点からの研究を続けることの必要性が確認された。
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