科学技術倫理としての環境倫理の理論的研究は、マイナ-・サブシステンスの技術の特質を理論的、実証的に研究することが必要であることが前年度までの研究で明らかになった。そして、実証研究の対象事例としては、歴史的な史料などの決定的不足から捕鯨技術を研究対象とすることの現在的な困難さが明らかになり、むしろ、自然の権利訴訟の事例でのマイナ-・サブシステンスの技術のあり方が問題の本質を摘出するのに有効であることが明確になった。そのことを踏まえて、今年度の研究は、奄美大島や諫早湾などで展開している自然の権利訴訟の事例をマイナ-・サブシステンスの技術に関連する実証研究とその成果をもとにした理論的研究を中心にした。 奄美大島での自然の権利訴訟は、戦後の急速な開発の進行の中での、海岸での日常的な海産物の採取や捕獲、里山の薪炭林の利用などのマイナ-・サブシステンスの衰退と深く関連している。「自然の権利」の概念も、欧米の環境倫理学における「自然」や「権利」概念とは内容的に異なる。また、諫早湾などの干拓事業を巡る自然の権利訴訟においても同様なことが見られる。干潟での海産物の採取や捕獲などのマイナ-・サブシステンスを通じた干潟との深いかかわりのあり方が、「自然の権利」の中心的な内容になっている。そこで展開されている「自然の権利」という西洋的な概念を媒介にした、日本での人間と自然とのかかわりのあり方は、環境倫理の新たな枠組みを考えたときにその根幹に位置するものである。そして、その人間と自然とのかかわりのあり方にかかわる環境倫理は、豊かな自然とのかかわりの中心的な場にあったマイナ-・サブシステンスの技術の衰退と、人間と自然とのかかわりのあり方を精神的な部分において切り離してしまった近代的な土木技術との関係を検討することによって、すなわち、「技術」の社会的あり方を再検討することによって探究することができる。その問題は、まさに科学技術倫理の問題であり、前年度までの研究成果である、新たな理論的な枠組みとして提唱してきた「社会的リンク論」によって理論的に基礎付けた。
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