化学兵器禁止条約が本年4月に発効することを踏まえ、旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理が大きな問題となっている。その処理で重大な問題となっているのが、砲弾を爆発させ、中身の化学剤を周囲へ撒き散らすため炸薬としてピクリン酸が使われているが、これは年月の経過によって不安定度の増す火薬である。使用されたピクリン酸の火薬の実態および、化学剤の成分を十分に把握することなしには安全な処理はありえない。このような現状を踏まえ、本年度は各火薬メーカーの火薬成分についての資料の収集および聞き取り調査を行った。 また前年度に引き続き、戦前、毒ガスの生産量の拡大につれてその採掘量を増やし、結果として砒素中毒患者を多数出した、宮崎の登呂久での聞き取り調査を行った。 さらにこれまで、旧軍で窒息性のガスであるホスゲンを砲弾に充填していたことは、北九州市の曽根での聞き取りから明らかとなっていたが、その製造および実戦配備などの実態が不明だった。しかし本年度の調査によって、現在中国国内に旧軍のものと推測されるホスゲンを中身とする化学砲弾が多数存在することが確認できた。旧陸軍の化学兵器工場である大久野島ではホスゲンは製造していなかったことが確認されており、それらは民間会社が生産し旧軍に納めたものであると考えるべきである。これについては昨年度発見した「有末機関報告」に記載があったが、砲弾の存在を通じて具体的に確認できたのは初めてである。
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