これまで、安全で健康増進のためによいという観点からの巧みな動作の研究は、身体全体を動作解析することによって行われてきた。しかしながら、身体全体の運動を筋自体の出力特性から考察しようとする場合、どうしても説明しきれない部分があった。それは腱自体の動的特性を無視していたことによるといえる。そこで本研究では、様々な動作において、腱の果たす役割を定量分析し、化学的エネルギーを消費する筋がそれほど働かなくても身体運動を具現できる「巧みな動作」を究明することを目的とした。 1:人間の生体における腱の「張力-長さ関係」を超音波法により定量できる方法を本研究によって提示した。結果は2次関数で回帰できた。 2:肘の屈曲運動を対象に、弾性要素(主に腱による)の貢献を定量した。結果は、様々な負荷において、肘屈曲の全仕事量の約30%であった。 3:両脚の連続下肢屈伸や連続跳躍の下肢3関節のトルクを調べ、そのトルク曲線のピーク値が一瞬に大きくなることから、こういった運動では腱を中心にした弾性要素の働きが大きいことが推定できた。 身体運動において、運動を引き起こす力発揮源は筋自体であるが、ダイナミックな運動では筋と骨格をつなぐ腱が大きな役割を果たす。腱組織には、引き伸ばされると縮もうとする「バネの働き」があるからである。この腱をうまく使う動作は、反動を用いた動作である。本研究では、様々な身体運動において、腱の果たす役割の一端を直視することができた。これは、化学的エネルギーを消費する筋がそれほど働かなくても身体運動を具現できる「巧みな動作」を究明する手がかりとなると考えられた。
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