研究概要 |
継続的な適度な運動は高血圧症を予防し,また運動療法はその症状を改善することがよく知られている.しかしながら,運動中や身体トレーニング後の血管の収縮(弛緩)機構は不明な点が数多く残され,それらの事象を制御するには至っていない.申請者は,これまでにノルエピネフリンによるラット胸部大動脈の収縮(弛緩)反応が持久的な慢性運動負荷により有意に低下することを明らかにしている.さらに,この低下は血管内皮細胞存在下でより著明になったことから,血管内皮細胞から遊離される拡張因子が持久的な慢性運動負荷により増加する可能性を示唆してきた.そこで,今回は同様の実験を高血圧自然発症ラットを用いて行い,高血圧症の運動療法の意義を探った.実験動物には高血圧自然発症ラット(4週齢,雄性)を用いた.持久的な慢性運動負荷は週5日の頻度でトレッドミル走行を9週間行い,速度及び時間は漸増した.最終2週間は30m/分の速度で90分間の走行を負荷した.このトレーニングにより骨格筋の呼吸酵素活性は増加した.トレーニングにより安静時の平均血圧(mmHg)は有意に低下した(対照群:163±5,運動群:142±15).また,安静時の心拍数(拍/分)も運動により減少した(平均±SD,対照群:354±16,運動群:304±8).ノルエピネフリンによる胸部大動脈の収縮反応は運動群で有意に低下し,血管内皮細胞を除去すると運動による収縮反応の低下は減少した.このことから,持久的な慢性運動負荷はノルエピネフリンによるSHRラットの胸部大動脈の収縮反応を低下させ,これは血管内皮細胞由来の一酸化窒素の放出が増加することと関係しているものと推察された.また,脂肪細胞や心筋細胞の脂肪分解反応はSHRラットで低下する傾向にあった.しかし,脂肪分解反応に及ぼす持久的運動の著明な効果は認められなかった.
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