研究概要 |
本研究は,看護・介護作業にみられる「持ち上げ作業」に注目し,重量持ち上げ作業が作業強度や疲労に関する生体指標にどんな影響を与えるか,また,その影響は重量変化や作業者の体力とどんな関係があるかを明らかにすることを目的とした。女子看護学生12人に,15分間にわたる10秒毎に1回のペースの箱上げ作業を5分間の休憩をはさんで2度実施させた。前半作業の箱の重量は,NIOSHの1時間未満作業における許容限度重量を求める式から算出された6.9kgとした。後半作業については,被検者を4人ずつ3群に分け,それぞれ6.9kg,9.5kg,12.2kgの重量を割り当てた。安静時および各作業後に採血し血中乳酸濃度を分析した。作業中の1分毎の心拍数(HR)と酸素摂取量(V^^・o_2)を測定した。各作業後に主観的作業強度(RPE)の聞き取りをした。身長,体重,握力,腕力,脚力,背筋力,立位体前屈,最大酸素摂取量(V^^・o_<2max>)を測定した。 前半作業について,作業前後で血中乳酸濃度は0.563mmol/Lから0.815mmol/Lにやや上昇したが有意ではなかった。また,%V^^・o_<2max>(19.2%),HR(103.7拍/分),RPEの結果からも作業が生体に過度の負担を与えているとはいえなかった。しかし,すべての形態・体力項目と血中乳酸濃度変化との間の相関係数は負であり,特に腕力は血中乳酸濃度の変化率と間に有意な相関(r=-.637)を示したことから,作業負荷が一般的には許容限界内であっても体格・体力条件の劣る者に対しては,実際の負担水準について十分注意すべきであると考えられた。前半作業と後半作業の比較から,持ち上げ作業における重量増は生理心理指標の値を上昇させ,明らかに生体への負担度を高めたことが示された。したがって,一連の作業において計算上複数の許容重量が算出しうる場合,実際の重量設定には十分注意を要することが示唆された。
|