下り走という伸張性の筋収縮をともなう長時間運動後には、マクロファージが広く浸潤したり過収縮・過伸展あるいは筋原線維の断裂等の明かな筋の崩壊が確認された。下り走は-15度の傾斜トレッドミルを1日2時間3日間走らせた結果、長指伸筋の1横断面当り3%前後の崩壊筋線維が認められ、筋全体としては30〜50%の崩壊がみられた。筋幅部の横断切片の組織染色結果からも、アセチルコリン感受性を示す運動終板付近にも多くの崩壊像が観察された。また、下り走2・3日後における筋線維の横断切片像を観察した結果、アセチルコリン感受性の著しい増加や線維上にその感受性が広範囲に分布した線維像が観察された。このことは筋線維がその支配神経を失うことにより起こる結果と考えられた。トレーニングと下り走を平行することにより、顕著な筋線維タイプ移行が認められるとともに、1匹のみの筋ではあるが通常はモザイク上に各筋線維タイプが分布する中、type2A線維の数10本にもおよぶグル-ピングが見られた。 神経筋接合部においては、運動終板上にシナプス数が極端に減少した軸索終末が認められ、これは神経の解離過程(脱神経)の現象であると考えられた。また、2重3重の軸索終末が入り込んだ終板を持つ筋線維も見られ、ほぼ同時に再支配が進行していることが推測された。下り走1ヶ月後には中心核を持つ再生筋線維が多数見られることを確認した。 これらの現象は、伸張性の連続収縮は筋を崩壊させるが崩壊は筋自体と共に脱神経を起こし、直ちに筋と神経末端での再生も開始される。神経の再支配は過剰に起こる傾向があり、多重に支配される場合には従来と異なるタイプの運動神経に支配される可能性が考えられ、この結果から筋線維タイプ移行を起こすことが示唆された。
|