10年以上にわたりほぼ毎日、坂道歩行を実施している65歳以上の高齢者を定期的に運動を行っていない高齢者を対象とした。 被験者に瞬間的な前後方向の加速度外乱を与え、その際の足圧中心動揺の測定を行った。さらに、筋力、柔軟性、敏速性、巧緻性、平衡性、反応時間および歩行時間などの体力測定を実施した。そして、まず足圧中心動揺の分析値と体力測定値との相互関係について検討し、加速度外乱に対する姿勢保持能力に関与する体力要素を明らかにした。次に、両高齢者群の比較を行うとともに、体力レベルの高低による姿勢保持能力を検討することによって、坂道歩行運動が高齢者の立位姿勢保持能力に及ぼす影響について明らかにした。結果は以下の通りである。 1)足圧中心動揺からみた応答時間および動揺距離と足・膝関節の屈筋力および伸筋力、足関節および股関節の柔軟性、急歩の歩行時間との間に有意な相関関係が認められた。 2)定期的に坂道歩行を実施している高齢者は、定期的に運動を実践していない高齢者に比べ、足圧中心動揺からみた応答時間と動揺距離が短く、垂直飛び、長座位体前屈、棒反応、座位ステッピングおよび閉眼片足立ちに優れていた。また総応答時間と座位ステッピング、閉眼片足立ちの間、動揺距離(D2)と垂直飛び、長座位体前屈の間に有意な相関関係が認められた。これらのことから、坂道歩行運動が高齢者の加速度外乱に対する立位姿勢保持能力に効果を及ぼす可能性が示唆された。
|