近代ドイツ・スポーツ史の術語学的基礎研究として、今回は、特に「身体」をめぐって検討した。 近代ドイツ・スポーツ史の先駆者として、一般にグ-ツム-ツとヤーンを挙げるが、両者には「身体」をめぐって異なった見解が存在していた。前者は主としてKorperを、後者は主としてLeibを用いていたのである。グ-ツム-ツは物体や死体をも意味するKorperを好んで用い、自らの運動文化をGymnastikという、ドイツ語にとっては新しい言葉で表した。彼の運動文化論は、主として身体教育を考えていたのである。これに対して、ヤーンはKorperを殆ど用いず、生命につながるLeibを多用し、Turnenという言葉を造語して自分の運動文化を示した。彼の運動文化論は、主として運動教育を考えていたのである。 このことを当時の運動文化の現象の中で、どのような意味を持っていたのかを確かめることが、今回の研究の主なねらいであった。具体的には、ワンダーフォーゲル運動の前身であるトゥルネン旅行における身体運動に期待されていたものは何であったのか、ブレスラウ・トゥルネン論争では身体運動の教育をめぐって何が論じられたのか、近代の体育やスポーツは人間の身体をどのように考えようとしてきたのかを検討し、その成果は裏面の3つの小論に示した。 なお、これらの研究に支えられながら、近代ドイツ・スポーツ史を研究しているオイゲン・ケ-ニヒの「身体」をテーマにした学位論文を翻訳出版することができた。
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