研究概要 |
全身性の動的運動時に,その発揮パワーと運動継続時間の間には、ある漸近レベルのパワーをもつ直角双曲線関係が認められる。この漸近レベルはfatigue threshold(θF)と呼ばれ、持久性スポーツ成績を極めてうまく予測できる実用的な指標として認識され始めている。一方,一定値を示すパラメータ:W'は無酸素性エネルギーリザ-ブといった概念に相当すると予想される。従来の指標:VO2maxやATに対して、θFとW'はそれに加えて,もしくはそれ以上に意味のある指標である可能性が高いと考え,我々は一連の研究計画を立案した。第2年度である平成8年度は,1:θFの生理的意味付けに関する基礎的検討として,運動強度領域をATとθFで3領域に区分し,各領域での一定負荷運動中のVO2-kineticsを比較する,ならびに2:W'の生理的要因に関する仮説である無酸素性エネルギーリザ-ブに相当するものか否かについて検証するために,グリコーゲン枯渇(GD)条件と対照(NG)の両条件下でのW'を比較する,という2つの実験を行った。実験1からは以下の結果を得た。AT以下のmoderateな運動では従来通り,運動開始後3分以内に予想される定常状態VO2に到達した。AT-θF間のheavyな運動でのVO2は,想定される定常状態VO2-3分目で到達するがその後も上昇を続け,6分目あたりで「擬似的」な定常を示し,そのまま運動が継続できた。θF以上のsevereな運動では,定常状態になることなくVO2maxへ向かって上昇し運動を終了した。AT-θF間でのVO2は,予想される定常状態VO2よりも高いレベルの定常状態(slow成分と呼ばれる)に遅れて到達するが,運動はそのまま継続可能であることが特徴であった。実験2では,NG条件下と比較して,GD条件下ではθFには変化は見られなかったが,W'は有意に減少し,我々の仮説を支持する結果であった。すなわちW'の規定要因の一つとして筋内グリコーゲン貯蔵量の関与が認められた。
|