運動時には筋活動による熱産生が増加し、これに伴って非蒸散性、蒸散性の熱放散量が増加する。我々生体では、摂食後に食事性熱産生や食物の特異動的作用によって全身のエネルギー代謝が亢進し、体温が上昇する。さらに消化活動や体温調節に関与する種々のペプチドホルモンも誘導されるので、摂食は運動時の体温調節機構とりわけ熱放散反応を修飾する可能性がある。本研究では被験者に体重1kg当たり50.2kJのカロリーメイトを摂食させ、I.非蒸散性熱放散反応条件(室温25℃、湿度40%、35%Vo_2maxの自転車運動40分間)で食道温、鼓膜温、平均皮膚温、心拍数、指と前腕の皮膚血流量の測定、II.蒸散性熱放散反応条件(室温28℃、湿度40%、45%Vo_2maxの自転車運動30分間)で食道温、鼓膜温、平均皮膚温、心拍数、全身4ヵ所の発汗量の測定を行い、摂食が運動時の熱放散反応に及ぼす機序について検討を加えた。 その結果、実験Iでは運動開始前の各測定値は摂食条件で高かった。食道温上昇に伴う前腕の血流量の増加は摂食により影響されなかったが、指の血流量の増加は摂食条件で有意に高かった。また、実験IIでは摂食により鼓膜温、平均体温、心拍数は有意に増加した。運動中、体温の上昇に比例して全身4ヵ所の発汗量は大きく増加した。発汗が始まるまでの発汗潜時は摂食条件で有意に短くなり、発汗開始の鼓膜温並びに平均体温は高くなった。しかし、体温上昇に伴う発汗量の増加の割合は摂食の有無による差を認めなかった。 以上により摂食に引き続いて運動負荷を加えると、指では食道温上昇に伴う血流量の増加の割合は大きくなったが、前腕では差がなく、体温上昇に対する皮膚血管拡張反応に部位差のあることが判明した。摂食後の体温上昇に伴う発汗量の増加の割合は摂食後の有無による差は認められなかった。しかし、発汗開始時の閾値温は摂食により修飾された。
|