1.景観整備研究の動向把握を行い、その中での地理学の位置づけを検討した。人文主義地理学による景観論に独自性がみられるが、社会経済地理学からの検討は不十分なこと、また人文地理学と景観生態学との間に交流がみられないことなどの問題点が判明した。特に地理学サイドでは、景観の問題は、景観の存在する地域の地域性や地域構造との関連をふまえ、政策や景観に関わる主体等の要因も含めてより大きな枠組みの中で総合的に検討される必要があることを提起し、その枠組みのモデルを提示した。 2.景観政策の展開と景観整備実施について、全国景観会議と国土庁の資料により全国的な現状把握を行った。景観行政が1980年代から展開し始め、1990年代に入って急速に進捗したこと、景観の保全や整備に特に力を入れているのは中山間地域であることが明らかとなった。 3.2にもとづき、中山間地域の「周辺性」の問題とその構造を整理し、それとの関連で景観政策の意義を検討する理論的作業を行った。特に、「周辺性」の問題の基層(社会文化的側面)を克服する上で、大きな意義があることが指摘された。 4.実証的な分析を、中山間地域を対象に行った。特に主とした事例地域は広島県加計町であり、まず集落システムの変動の分析により中心集落の持つ諸問題が明らかにされた。さらに、その中心集落の振興のために、景観を中心としたまちづくり運動が展開していることに注目し、そのプロセスと成果を明らかにし、その意義についても論じた。さらに景観保全の先進地域の愛媛県内子町の事例に言及し、今後農村部での景観保全が重要となることを指摘した。 5.オーストリア・チロル州での景観保全を、日本の事例との比較を意識しながらまとめ、その強い保全指向の裏に地域主義の存在があることを示唆した。
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