大都市部、被害発生地域、天台宗寺院、狩猟者といった野生動物とのかかわりに違いのある4つの典型的な地域や社会集団を選定し、それらの動物観を検討した。動物観は、‘命や霊魂'観、‘殺生'や‘肉食'に対する抵抗感といった深層的な部分と、イメージといった表層的な部分によって構成されていると仮定して検討を行なった。 その結果、4つの地域や社会集団の野生動物に対するイメージには、共通点もみられたが相違点もみられた。これらのイメージは、たとえば、野生動物との直接的なかかわり、特に利害関係の先鋭化により影響を受けていた。しかしまた、そのような直接的なかかわりがみられなくなった地域においては、公園や動物園でみられる野生動物、テレビや図鑑などで紹介される野生動物、キャラクター商品化された野生動物などの影響を受けていた。 これらは、直接的であるのか間接的であるのかといった違いはあるものの、今日の人々の野生動物に対するイメージをつくりあげていた。今日の人々のイメージは、伝統的なイメージの上にこのようなイメージがかぶさってできあがっていると考えられる。 また、野生動物に対する‘命や霊魂'観や、‘殺生'や‘肉食'の抵抗感については、4つの地域や社会集団における結果から、古くから日本人に認められるといわれてきた特有の動物観、つまり動物に対する親密性や動物との連続性が、今日もかなり認められる様子がうかがえた。しかし、これらの時代的な変化、たとえばそのグレイドの低下などについては今後の検討課題となる。また、このような日本人特有の動物観といわれるものをより明確に描写するためには、今後他の地域の人々との比較研究が必要となってくる。
|