研究概要 |
[I]梅雨前線(上の擾乱)の形成プロセスの理解を目的として,チベット高原を中心とするユーラシア大陸上における大気場の時間変化を1992年6月20日前後の事例について解析し,以下のことが指摘された.(1)中国大陸上に梅雨前線が解析されるのに先立って,チベット高原東側下層に正渦度帯(シアライン)が現れる.(2)シアラインの形成には,高原東側に沿う非地衡風的な北西〜北風が関与している.このとき高原近傍の高度場には高原に捕捉された高気圧と低気圧の配列が現れ,それが高原沿いに移動している.このような高度場および風系場は,高原に沿って出現するケルビン波の存在を示唆している.(3)同時に出現した低温域南側の局所的な温度傾度や南風による水蒸気供給が,シアラインから梅雨前線(上の擾乱)への発展に寄与している可能性が示唆される.(4)高原西側における亜熱帯ジェットと中高緯度トラフとの相互作用も,上記のような高原周辺における大気場の時間変化ならびに中国大陸上の梅雨前線活動に影響を与えている可能性がある. [II]中国大陸上において梅雨前線が南下する場合と停滞する場合における前線構造ならびに前線近傍の降水分布の差異についても解析を行った.両者における前線構造の差異は,地上の前線の北側において明瞭に認められる.前線が南下する場合には前線北側の大気下層において背の低い低温域が存在し,この領域では前線南側に認められる下層の対流不安定性が解消されている(前記Iの事例に対応).停滞する前線の場合には前線北側の大気中層に乾燥空気が存在し,前線北側でも大気下層における対流不安定性が前線南側と同程度に大きくなっている.前線近傍における降水分布(日降水量)についても差異が認められ,南下する前線では多降水域の南北幅が広く,停滞する前線では降水が空間的に集中し南北幅は狭い.
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