研究概要 |
梅雨前線は準定常的な亜熱帯前線と考えられているが,東アジアにおいて梅雨前線に対応する降水帯や雲帯は常に現れているわけではない.それゆえ,総観場の日々変化の中に梅雨前線の形成あるいは更新のプロセスが存在しているはずである.本研究では詳細な事例解析により,中国大陸上における梅雨前線の形成・発展のプロセスに寄与すると考えられるチベット高原周辺の大気循環を捉えることを目的とする. 梅雨前線の形成に先立って,チベット高原方向へ南東進してくる上層のトラフに伴いチベット高原北側の大気下層には東西方向の走向を持つ高圧帯が形成される.この高圧域とチベット高原北東方の低圧域は,トラフが高原のちょうど北側に達したときに強化される.同時に,そのチベット高原北東部に位置する低圧部と,華中にある高気圧との間に背の低い低温気塊が出現する.このとき,西〜北寄りの強風がチベット高原の北〜東端に沿って認められ,また,チベット高原の東側においては北風と南風との間に南北方向の走向を持つシアラインが現れる.この下層のシアライン(正渦度帯)はチベット高原北東端に沿う非地衡風的な北西〜北寄りの強風の出現に伴って出現している.また,チベット高原に捕捉された高気圧と低気圧のシステムも認められる.低温気塊の東進に伴ってシアラインの走向はほぼ東西方向となる.低温気塊南側における局所的な強い温度傾斜と南からの水蒸気の供給が,シアラインから梅雨前線への発展に寄与していると考えられる. また,時間的に南下する梅雨前線と停滞する梅雨前線について,両者の構造の比較を行った.
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