研究概要 |
本研究は、カヤ場(ススキ草地)の成立と黒ボク土の発達の関係を考察するために岩手県玉山村外山地区および神奈川県秦野市菩提地区において、詳細な土壌断面調査および土壌試料の採取を行った。玉山地区には、安山岩質テフラを母材とする黒ボク土が発達し、カヤ場や放牧のためのササ草地・牧草地として利用されるほかは、ミズナラ二次林が広くみられる。一方、菩提地区では、玄武岩質テフラを母材とする黒ボク土が発達し、現在森林組合によって維持されている小面積のカヤ場のほかは、スギ・ヒノキ林を主体とする植林事業が展開されている。両地区において、母材、地形条件を考慮してカヤ場と樹林地の模式断面を選定、調査し、断面から採取した土壌試料を用いて、三相分布・容積重、腐植含有率、腐植組成、pH(H_2O,KCl)、交換酸度、CEC塩基飽和度、交換性陽イオン、Al,Fe,Siの定量等の理化学性に関する分析を行った。一部の分析については現在作業を進めている。その結果、表土の腐植含量は樹林地の方が大きいが、腐植組成についてはカヤ場土壌の方が腐植化度の高いA型腐植酸が生成されており、土壌断面のA層の層厚もカヤ場履歴土壌の方が大きい。表層の潜酸性(pH;KCl)、交換酸度Y1、CEC、交換性陽イオンを比較すると、菩提地区ではカヤ場と樹林地では顕著な差がみられないのに対し、玉山地区ではカヤ場と樹林地ではこれらの理化学性に顕著な差がみられ、とくに樹林地の表層は、交換性アルミニウムの存在に由来する酸性が強く現れている。選択溶解によるAl,Fe,Siの定量を行った結果も、これを支持することが明らかとなった。したがって、理化学性でみられる2つの地区の違いは、おもに母材の岩質とテフラの供給年代の違いを反映しているものと考えられる。このことは、今後粘土含有量を調べることにより、確認することができる。以上のように本研究より、カヤ場のような植生干渉には土壌の酸性を弱め、地力の維持に対する働きかけが認められ、母材供給年代が古い土壌ほどその効果は促進されることが明らかとなった。これらの結果の一部は、1997年日本地理学会春季大会(3月)にて発表を行う予定である。
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