研究概要 |
本年度は、前年度の調査地域(岩手県玉山村外山、神奈川県秦野市菩提)に加えて熊本県阿蘇外輪山および島根県三瓶山において土壌調査を行い、カヤ場(ススキ草地)の成立と黒ボク土の土壌の発達の関係を土壌理化学特性分析をもとに明らかにした。土壌調査および土壌分析は各地域ともカヤ場との対照地として樹林地についても同様に行い、植生管理形態の違いによる土壌理化学性を比較検討し、さらに地域性を考察した。土壌分析の結果、持続的草地利用は難分解性のA型腐植酸の生成に伴い、土壌中の炭素含量が増加し、表層では塩基飽和度の増大がみられた。また、土壌酸性の強度(pH,KCl)および酸の容量(交換酸度y1)はいずれも草地と樹林地の表土で顕著な差がみられ、草地は酸性化の程度小さいことが示された。すなわち、草地利用下の黒ボク土は樹林地下の黒ボク土に比べて炭素固定能が高く、また水分循環と塩基類の物質循環が活発に行われるため、塩基類の溶脱による土壌の酸性化が抑制されていると考えられた。さらに、4つの地域における土壌分析結果を総合すると、土壌酸性化の抑制機能は、母材環境および気候条件によっても異なることが明らかとなった。とくに、降水量の多い気候条件を持つ地域、母材の供給年代の古い地域、広域風成塵起源の2:1型粘土鉱物の混入が考えられる地域では、土壌の酸性化が進行しやすいため、こうした地域における持続的草地利用の果たす役割はとくに大きいと結論づけられた。なお、本研究の成果の一部を日本地理学会春季学術大会(東京,1997年3月)および環境科学会1997年会(北九州,1997年10月)において公表した。
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