研究概要 |
本研究では土壌生成論と地理的分布論の2つの視点にもとづき、日本各地に分布する火山灰土を対象として古来からの営まれてきた土地利用システムと黒ボク土の発達との関係を明らかにし、植生干渉が土壌環境の保全にもたらす影響を踏まえて、資源としての土壌の持続的活用について考察することを目的とした。まず、採草と放牧利用としての草地の存在と深い関わりのある黒ボク土の発達について知見を整理したのち、これらより起源の古い生業としての狩猟について、落とし穴の調査より草原の成立時期と機能について究明していくことが可能であることを論じた。また、千葉県、埼玉県の洪積台地を対象に、淡色黒ボク土を調査・分析した結果、台地上の淡色黒ボク土は中世の鉄生産本拠地との分布的対応がみられ、土壌分析結果から防風林と薪炭林生産という2つの機能を備えていたと考えられる二次林の発達が腐植集積を抑制し、淡色化に寄与しているという淡色黒ボク土生成における植生干渉説を提起した。さらに、ススキ草地が現存する岩手県玉山地区、神奈川県菩提地区、島根県三瓶地区、熊本県阿蘇地区における土壌調査を行い、古来よりカヤ場として機能してきたススキ場草地と二次林が成立する樹林地における黒ボク土の性状比較をした結果、植生管理形態の違いが土壌資源の持続的活用に及ぼす影響について明らかとなった。すなわち、持続的草地利用により難分解性のA型腐植酸の生成が進み、土壌断面内の炭素含量が増加する結果、林地利用に比べて単位面積当たりの炭素固定能が優ることが明らかとなった。また表層では草地において塩基飽和度の増大傾向がみられ、土壌酸性の強度および酸の容量はともに草地よりも樹林地で,大きくなる傾向が導かれた。そしてこの土壌酸性化抑制機能は土壌母材環境と気候環境によって地域差があることを明らかにした。本研究より、黒ボク土の発達は古代生業システムに対応して固有の性質を発達させてきており、草地利用が土壌資源を持続的に活用するシステムとして優れていることが明らかとなり、今後、土壌の資源性評価は土壌母材特性、土地利用特性を考慮して検討していく必要があることを考察した。
|