平成7、8、9年度科学研究費補助金基板研究(C)(2)を得て、石灰岩の溶食を実測することで、日本のカルスト化過程の量的把握と地域差と年変動を明らかにすることができた。1993年〜1997年の5ケ年間にわたって、全国7地点(旭川(当麻)、阿武隈、秩父、秋吉台、四国大野ケ原、龍河洞、南大東)での石灰岩片を用いた溶食率の計測から次のことが明確になった。(1)本州域においては、北から南へ溶食率が増大する。しかし、南西諸島では、乾燥する季節があり、気温の効果があるにもかかわらず溶食率は西南日本のそれより低い。(2)地上1.5mと土壌中のA_1層位とB_2層位における石灰岩片の溶食率を比較すると、常に土壌中では2〜3倍高い。このことは裸出カルストと、被覆カルストでは、被覆カルストの方がより溶食速度が早く、その差が量的に明確になったことを示す。(3)石灰岩片の溶食率は過去5年間の気候変動を反映している。特に5ケ年間のうち、最大の溶食率を示したのは、地上1.5m、土壌中ともに1993年であり、最小を示したのは、1994年であった。1993年は全国的に湿潤年であり、1994年は高温、乾燥した夏を伴う年であった。(4)5ケ年の石灰岩片の溶食率と最も相関のよい要素は、空中では水過剰量(WS)-水不足量(WD)である。(5)土壌中の石灰岩片の溶食率はA_1層位とB_2層位において最も相関がよいのは、年降水量である。(6)曖候季に20mmをこえるまとまった降雨の後、約3日後に土壌中の二酸化炭素分圧(濃度)が高まり、土壌水分と高い二酸化炭素分圧が石灰岩の溶食作用に最も強く関与している。以上の(1)〜(6)からモンスーン気候下の日本のカルスト化過程を5カ年間の結果から体系化することができた。
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