平成7年度から3年間にわたる本研究の最終年度の終結に当たり、本年度を中心に本研究の活動と成果を総括する。本研究の目的は、日本でようやく公的責任による視覚障害者の高等教育が開始されたのに伴い、従来未整備であった高等教育段階で使用される数学記号と数式表記等に対応する点字記号体系の基盤を整備充実することであった。この目的を達成するために、当初次のような作業が必要であると考えられた。 (1)従来の日本の数学点字記号体系を調査し、理解し、問題点を検討する。 (2)現行の日本の数学点字記号体系について、点字利用者の意見を聴取し、検討する。 (3)従来の海外の数学点字記号体系を調査し、理解し、問題点を検討する。 (4)現行の海外の数学点字記号体系について、点字利用者の意見を聴取し、検討する。 (5)以上の研究に基づいて、日本の高等教育に対応する数学点字記号体系を提案する。 初年度は、本研究助成金によって必要備品等を調達し、研究環境の整備に努めるとともに、この(1)〜(4)の方針に基づいて国内外の資料と意見の収集を活発に行った。第2年度も、前年度に引き続いて、資料と意見の収集を継続しながら、数学点字記号体系の様々な問題点を検討し、本研究者の点字記号体系に対する理解が深まったのに伴い、本研究者は次のような見解を持つに至った。 (あ)現行の数学点字記号体系の思想を理解するためには、過去の歴史的変遷を知る必要がある。 (い)最近、国際統一点字記号体系の制定に関して、触読という点字の特質を無視して、単純かつ機械的に処理しようとする傾向が顕著になっている。 このため、本年度に入って本研究者は、歴史的考察を遂行する基礎となるべき過去の資料の収集を積極的に行うとともに、斎藤は日本の数学点字記号の歴史的対照表を現在執筆中である。また、点字記号体系の公共性の重大性に鑑みて、新新記号体系の提案は、研究事業の進行上、時期尚早と判断し、今回は見送ることとした。栗原は、視覚障害者教育の基盤として視覚障害の本質のより深い理解が必要と判断して、以下に示すような資料を公表した。 最後に本研究事業を総括して評価すれば、研究成果は必ずしも当初の予定と一致しない部分もあったが、大筋では当初の計画に沿って数学点字記号体系の基盤が整備充実できたと言える。
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