学習指導要領の改訂に即して出版された中学校・高校の家庭科教科書並びに共修の実践を収集・検討した結果、今日の学校や家族、社会が生徒の知的好奇心や自尊感情を衰退させ、自分さがしを困難にしていることや性や家族が揺らいでいることから、家庭科では「性」や「家族」を取り上げ、生徒自身が自己や家族、社会との関係について考え、問うていくような実践が新たに試みられていた。しかし、新しく教科書に加えられた関連項目の記述が不十分なこともあって、内容構成や方法については模索中といったところである。 米国では、日本で課題になっている青年の自立を促すような性や家族の学習プログラムが1960年代につくられた総合制ハイスクールにおいて要求され、作成されてきた。米国の文献調査により、これらの優れたプログラムを収集・分析している全米調査の報告書(1984年)を入手し、1980年代の優れたプログラムの構成視点や公立学校における実施状況をつかむことができた。また、ハイスクールにおける「家族関係コース」についての全米調査(1993年)の報告書を入手し、米国で用いられている主な教科書が明らかになった。それらを収集し、現在日本の教科書と比較しているところである。 米国では、教育課程や教育内容について、日本の学習指導要領のような連邦政府のものはなく、州のカリキュラムも構成や位置づけ、実施状況は州により様々である。教科書検定制度もない。以上の影響もあり、日本の教科書が教えるべき事柄の要約や概説の形式をとり、構成や内容がかなり共通している(但し、1994年度出版「家庭一般」の教科書5社7種類では変化しつつある時代を反映し、「家族」や「母性」などの定義や内容構成に多様性がみられる)のに対して、米国の教科書には以下の特徴がみられた。第一に、構成も内容も多種多様であり、ホーム・エコノミクスの内容全体を網羅するものもあれば、「家族」や「性」だけを扱うものもある。第二に、資料集のように事実や研究データが紹介され、専門的なものもある。第三に、日本の教科書と似た構成のものでも、事実や研究成果が紹介されていることが多い。「家族」では、児童虐待や夫婦間暴力なども扱われ、リアルに現実に迫ろうとする視点がみられる。第四に、以上の点から、生徒が探究するための手だての1つになるように構成されており、それは「家族」や「性」の学習ではとりわけ重要な点である。それでも、全米調査では、「家族」学習においては、教科書や資料が時代遅れである点が問題視されている。今後、「家族」や「性」に限定して、さらに詳細な内容比較を行う予定である。 また、現在、先の報告書を検討し、家庭科教育改革に関する全米調査を行うためのプレ調査を検討中であり、今後、調査により、注目される州の改革や教科書に関する情報を入手し、まとめる予定である。
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