本研究では、視覚障害者をとりまく音楽教育環境を改善し、視覚障害者が興味を持って点字楽譜の学習に取り組める点字楽譜学習システムを開発すると共に、システムの教具としての意義を検討・考察した。なお、システムは、パーソナルコンピュータ・システム、点字ピンディスプレイ、点字プリンタおよび本研究で開発したソフトウェアから構成されている。 開発したシステムの特色は、下記の通りである。 (1)入力作業者にとっては、パソコン画面上の五線譜上で各種の音符や記号がマウス操作のみで容易に配置できるため、簡単に楽譜の作成(入力作業)ができる。したがって、墨字楽譜と点字楽譜における複雑な楽譜記号の意味や表記の規則を知らない晴眼者でも、容易に墨字楽譜を点字楽譜に点訳できる。引いては、点訳のボランティアも得やすくなる。 (2)あらかじめ点字紙に点字楽譜を作成していなくても、墨字楽譜にしたがって入力すれば、その場で点字ピンディスプレイに点字楽譜が表示される。したがって、教師は教えたい内容に即した音符などを適宜生徒の前で容易に入力でき、生徒はリアルタイムで翻訳された点字楽譜を触診・判断できることから、臨機応変かつ柔軟な授業展開が可能となる。 (3)利用者である視覚障害者にとっては、パソコンに組み込まれている音源機能を活用して、各種の楽譜に対応した電子演奏(楽器の選択も任意)を聴くことが可能であり、さらにその点字楽譜をピンディスプレイにも出力ができるため、同時に音(演奏)と文字(点字楽譜)の両方のメディアにより学習ができる。 評価の結果、システムを用いた授業では、従来の授業に比べて学習も楽しく、理解もしやすく、学習意欲も高揚されることが明らかになると共に、この理由としてシステムのマルチメディア性が重要な役割を演じていることが示唆された。
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