研究概要 |
本研究は,現代の子どもの生活体験の少なさによって引き起こされる子どもの側の学習困難,および教師の側の授業困難の具体的な様相を明らかにし,授業改善に資することを目的とした。 1,子どもの生活との関わり方。授業の前提となる子どもの生活実態調査の結果は次の通りであった。 (1)小中高校生708名に対する質問紙調査の結果によると,(1)住居の維持管理に関わる仕事をする家庭は少ない。(2)繕い物をする家庭はあるが,子どもの関わり方は小さくまた男女差がみられた。 (2)調理に必要な技能の年齢別習得状況の調査結果から,早期習熟型,低迷型,段階型,ジャンプ型などが析出された。ジャンプ型(野菜いためを作るなど)では家庭科学習との関係が推測された。 (3)生活関連用語については,(1)食生活関連では,家事労働体験の少ない子どもの側に,料理名,調理法,道具についての理解が低かった。(2)衣生活関連では,家事労働体験の程度とは関係なく縫製に関わる用語,季節ごとの衣類管理に関する事柄などについての知識が全般的に少なかった。 2,実習を含む授業の分析から次のような結果を得た。 (1)教師は授業内容そのものよりも教育環境を整える事柄に多くの時間を費やしている。また(2)指示代名詞を多く使用しており,作業の指示も的確性を欠く場合が多かった。 3,授業を以下の点について改善した結果,一定の成果がみられた。 (1)実習前に作業の段取りについての理解を徹底させた。(2)教師の教授行為の中で時間,量,作業内容に関する指示の言葉を吟味し,使用するようにした。(3)生活体験の少なさに伴う生活認識の弱さを補うために,学習指導にあたっては,現実を自覚的に観察させるための「対立点」を強調するディベート(中学・食品添加物の問題の学習),作業のタイミングに注目させる自作VTR教材(小学・卵やきの実習)を導入した。
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