研究概要 |
丹羽は、発ガン機構を分子生物学的な手法で解明するために、252Cfを照射した父親マウスと無処置の母親マウスの間に生まれたF1マウスの生殖細胞における突然変異の頻度を観察し、統計的に有意な照射効果を得、放射線曝露による細胞の遺伝的不安定性が世代を渡って継承されることを確認した(J. Radiation Research, 37, 1996)。大瀧は、発ガン過程を一個の細胞の変異、変異細胞の増殖、ガン細胞の出現と腫瘍の形成・生長という一連の確率過程としてとらえ、″Premutation″-Mutationモデルと呼ばれる数理モデルを構築した。このモデルでは、発ガンの最初の段階のみが曝露依存性を持つものとしており、腫瘍の生長期間の長さは個体によって変動しうる確率変数として定式化されている。そのモデルをマウスの継世代発ガンデータや放射線影響研究所から公表されている広島・長崎の原爆被爆者におけるガン罹患データへ適用し、線量反応関係について統計解析を試みた。それらの結果は、広島医学,49巻,1996に公表されている。松浦は、広島県在住の原爆被爆者に焦点を当てて、被爆線量と各種ガン死亡の危険度との間に線形な線量反応関係を仮定し、ダイナミックコホート解析の手法を適用して統計解析を行った。その結果、白血病、肺ガン、大腸ガン、乳ガンについて、放射線被爆による統計的に有意な超過危険度が検出された(J. Radiation Research,印刷中)。
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