研究概要 |
一般のガン臨床比較試験においては、一定の条件の下に必要な症例数が公式に基づき算出され臨床家はその目標数集積に向けて努力する。しかし通常の公式は症例が均一であることを仮定しており、臨床家もその点での検討はあまりなさないでいる。しかしながら、一般にガン患者の予後因子は多く、症例の不均一性はかなり大きいことが平成7年度の研究で明らかにされた。 平成8年度には、「均一な症例では、層別により層の数が増える(層内の標本数が減る)ほど検出力が低下する」という現象並びに「バランスが取れている時でも、予後因子を無視した治療効果の検定を行うと、検出力は均一症例の時より低下する」ことを数学的に証明した。次に、ガン集学的治療研究財団特1研究の集積データの詳細な分析を行った結果、全症例の対数ハザードレンヂは5以上であること、及び1つの予後因子における層間の対数ハザードレンヂは高々3程度と推定された。これらの結果に基づき、実際の臨床試験において治療効果をログランク法で検定した場合の検出力を、シミュレーションにより推定した結果、名目上80%のときでも実際は30%未満であることが判明した。同様に層別ログランク検定についても、層内対数ハザードレンヂが1.5を越えるとき,または層内標本数が8例以下の時は検出力低下の著しいことが判明した。以上の結果、多数の予後因子が存在し症例の不均一の程度が大きい時は、層別ログランク検定の検出力低下は避けがたいことが実証された。そこで、ガン臨床試験における予後因子の特質を充分に利用することにより、検出力低下の小さい検定方法として、折れ線Cox回帰法を開発することに成功した。これまで汎用されてきたハザードの直線性を仮定した直線Cox回帰法と比べて、データへのモデルの適合度が高まる結果、誤った結論に達する危険が小さいことも特長である。
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