研究概要 |
本研究の目的は,ベクトル計算機や(超)並列計算機を数式処理に適用し,その卓越した処理性能と豊富な計算機資源を数式計算に活用することと,その最大限の能力を活かして大規模な計算を可能とすることである.本研究で得られた成果を以下に列挙する. 1.大規模な多項式の因数分解を行う際の手がかりとなる次数別因数分解について,最新の算法の計算量的な解析を検討・検証すると同時に改良を試みた.特に,その算法中に現れる代数的独立性に着目し,通信のlatencyも考慮した詳細な解析に基づいた並列処理算法を新たに開発した.その結果は英論文としてまとめ、数式処理に関する代表的な国際会議ISSAC'96で発表を行った. 2.研究代表者が近年開発した,疎な多変数多項式を補間法により決定する新モジュラー算法について,再検討を行ってより精密化し,その結果を,記号処理における主要な論文誌Journal of Symbolic Computationに発表した. 3.整数GCD計算の並列処理等への活用も前提とした研究が,ここ数年盛んに行われ,新算法が発表されている.本研究においても,最新の算法をRisa/Asirに実装し,こうした古典的な問題おいてさえ,算法と適切な実装に依り,大幅に高速化しうることを確認した.さらに,この改良をグレーブナ-基底の計算にも適用した結果,代数方程式系の解法を高速化することができた,特に,Risa/Asirの開発者らは,並列・分散処理も用いて,大規模な代数方程式系の解法を試み,世界初の計算結果を出すことに成功しており,研究代表者による上記改良もこの計算の成功に大きく貢献していることが発表されている. 4.今日,大規模な多項式の計算を行う場合,その乗除算への漸近的高速算法の適用は必須であると認識されるようになってきているが,本計画においても,ここに掲げた様々な計算への応用を目的として,その実装を試みた.この開発と実験を通して,算法としては記述されない工夫が実装上必要であることを確認し,具体的な実績としては現れない様々な技術を習得することができた. 5.次数別因数分解の算法でも必要となる,多項式の同時多点評価法について,改良を加えた新たな算法を開発し発表した.併せて,並列化の方法も検討し,実用化する上で重要な通信のlatencyをも考慮に入れた並列算法を開発した.これらの詳細な解析結果を英論文としてまとめ,並列記号処理に関する国際会議PASCO'97に投稿した結果採択され,同国際会議で発表する予定である.また,その有効性を実証するために,並列処理向けのKLICによるプログラムの開発を進めている. 分散・協調処理については,Risa/Asirでも最低限の機能を有するようになった等の理由により,機能を充実させるための開発は行わなかった.特に,様々な研究開発を進めた結果,現時点では,計算機科学的な機能開発よりも,並列分散処理向けの算法の構築等の数理的研究が極めて重要であるとの認識に至った.
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