1.発現的計算モデルの複雑な振る舞いを観察する可視化シミュレータを構築し、これを用いた予備実験として、発現的計算モデルに基づく対戦型マルチエージェントゲームにおける協調的戦略の発現を試みた。その結果、発現的計算モデルには偶然性が本質として根底にあるため、高位機能・戦略の発現を実験的に確認することは必ずしも容易ではないことがわかった。特にエージェントの基本動作を規定する各種パラメータや初期状態の設定が極めてクリティカルである。 2.実現したシミュレータ上に、ラムダ式の超並列グラフリダクションシステムの構築を試みた。しかしエージェントの状態遷移規則の設定は予想以上に難しく、現実的なシミュレーション時間内では、エージェント間の協調によるリダクション動作の発現には至らなかった。そのため研究計画を一部修正し、超並列グラフリダクションのための発現的負荷分散システムの構築を試みた。超並列計算場において負荷分散エージェント(計算ノート)が軽負荷ノード群を発見する機構に、確率学習オートマトンと遺伝的アルゴリズムを融合した強化学習法StGAを用いることにより、適応性の高い負荷均衡を発現させる。 3.超並列計算機SR2201に発現的負荷分散システムのプロトタイプを実現した。入出力を伴わない仮想的な独立タスク集合を用いたシミュレーション実験により、適応性の高い負荷分散機能が実現されていることが確認された。また、タスク転送先の計算ノードクラスタが自己組織的に構築されていくという興味深い事実も確認された。この現象は発現的計算モデルの特徴の一つであると考えられる。超並列計算場における負荷分散は発現的計算モデルの実用的な応用分野として期待できる。
|