本研究の直接的目的は、紙上に手書きされた2次元文字画像から、その文字の書字中における、失われた筆点運動の時間波形を復元すると言う逆問題を解くことである。この問題が解決されると、極めて難問とされてきたOff-Line型草書体手書き文字認識をはじめ自動署名照合、手書き線画の情報圧縮等に大きく寄与することができる。本研究では以下の手順によって、その可能性を実証した。 1 紙上に手書きされた2次元文字画像をスキャナーで読み取り、細線化して文字のスケルトン画像を得る。 2 始点と終点を与え、始点から終点までストロークをトレースし、各分岐点間におけるストロークの結合状態を表現するインシデンス・マトリックスを得る。 3 このマトリックスを分析することによって、始点から終点に至る可能なオイラーパスを全て求める。ただし、計算量を抑えるために、インシデンス・マトリックスをある決められた条件を満足する部分マトリックスに分解し、その部分マトリックスに対応する文字部分毎にオイラーパスを求める。 4 求められた各オイラーパスに沿って始点から終点まで一定間隔でストロークをサンプリングし、これらの点の近傍を通過する最も滑らかな平面曲線をSLALOM法で求める。 5 この時の近似誤差を最小とするオイラーパスがストロークの筆順を与える。 以上の方法によって、安定に筆順情報を再現することができた。更に筆順情報から筆点運動の時間波形を復元する問題は、KL展開と時間軸の非線形伸縮(DPマッチング)により、ある種の最適化問題に帰着させて、これも解決可能であることを実証した。
|