本研究は、点字使用者のプログラミング環境を整備することを目的に、問題点を把握するための実態調査と、その結果に基づくソフトウェア開発とを行った。 1.重度視覚障害を持つ情報処理技術者の職務遂行環境に関する実態調査 点字を使用しなければならない程度の重い視覚障害を持つ情報処理技術者を対象に、プログラミングなどの情報処理業務を遂行する環境の実態を調査した。その結果、 *コンピュータ・アクセスの手段が十分に整備されていないこと、 *マニュアルなどの資料調べが難しいこと、 *周囲との文字によるコミュニケーションが円滑にできないこと、 *図形的な情報の処理が難しいこと、 *思考を助けるための有効な手段がないこと、 *新しい技術や知識の習得が難しいこと、 などの問題があることが明らかになった。 2.点字出力機能を備えたテキスト処理システムの開発とその有効性の評価 重度視覚障害者のプログラミング作業では、点字を用いるシステムが未整備なことなどから、プログラムの入力・編集やマニュアルの検索などのテキスト処理は、音声出力を利用して行われている。しかし、この方法は、処理の確実さや心的負担などの点から必ずしも満足できるものではない。そこで、タッチ・カ-ソル・スイッチ式の点字ディスプレイ装置に出力される点字を介してテキスト処理を行えるソフトウェアを開発し、点字出力を用いるテキスト処理と音声出力によるテキスト処理を比較する実験を行った。その結果、 *処理速度は平均的には点字出力を用いた方がやや速いこと、 *処理をするテキストの内容によって能率の良否がそれぞれに異なること、 *心的負担は点字出力の方がはるかに小さいこと、 などが明らかになった。これらのことから、重度視覚障害者のプログラミング環境には、従来からの音声出力に加えて点字出力も導入することが望ましいとの結論を得た。
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