本研究の目的は、さまざまな主体(人間であれ、生物個体であれ)が、それぞれの目的を持ち、複雑に相互に影響を与えている複雑系としての経済・生態系の挙動を計算機模擬(シミュレーション)により解明することを支援するための社会工学的な実験手法を開発することであった。 平成7-8年の研究成果は下記のようにまとめられる: 1.経済・生態系の知識工学的な枠組みによるモデル化 多領域の知識を必要とする複雑系モデルを、計算機プログラミングの専門家でない研究者が (1)仮説や条件等を設定でき、(2)モデルの再構成が容易にでき、(3)計算機模擬による実験を高速ワークステーション上で行なえる、という実験手法を確立した。すなわち、CESPやMathematicaというオブジェクト指向の論理型言語により、閉鎖系水域や都市河川系のネットワークにおける水質汚濁、富栄養化、有害性化学物質による健康リスク等の現象と人間・都市活動の相互関係を、領域知識として独立に記述し、計算機によるシミュレーション技術とは分離して開発、修正、改変、学習等ができるようにした。 2.実験経済学やゲ-ミング等の社会工学的実験と複雑系の計算機模擬の統合化 少数の主体の参加による実験経済学やゲ-ミング等の社会工学的実験と高速ワークステーション上での計算機模擬を統合して行う枠組みの原型の概念設計を行い、最近の遺伝子アルゴリズム等を導入した幾つかの実験を試みた。すなわち、少数の主体の実験から出てくる経済取引や市場のルールの形成過程の仮説を、大規模で複雑な条件において計算機で模擬して、その妥当性を検証する知識工学上の枠組みを設計し、一定の成果を得た。
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