研究概要 |
長崎県雲仙普賢缶の火山活動に伴い,長崎県島原市において被災した住民に関して,昨年度までに構築したデータベースに対して,先ず,1996年までの居住地移動の実態と,世帯属性などの情報を付加しデータベースを完成させた。また,行政が主体となり1995年に行った全被災者に対するアンケート調査の回答紙から,被災前後における職業の変化等に関する情報も取得し,データベースを構築した。昨年度は,壊滅的な被害を受けた4町を採り上げ,居住地移動の空間的な展開と,世帯の分離状況を詳細に解析した。本年度は,これら4町を含む島原市内の18町における被災世帯に対象を拡げて,世帯分離の実態を明らかにした。世帯分離は世帯構成員数(世帯規模)が多いことと対応する傾向があり,狭小な住居が世帯分離の原因のひとつであることを示唆する。また,親,子,孫などの血縁的関係に基づく世帯構成の類型や,世帯主の年齢によって,分離する世帯構成員が異なる傾向にあることも分かった。普賢岳の火山災害が直接的原因で分離した世帯を特定することは現時点では困難であるが,国勢調査による5年前居住地からの移動の有無の資料と対照させることにより,少なくとも,被災を契機として世帯分離が加速されていることが明らかになった。また,就業者のうち,農業従事者が被災後に転職あるいは無職になっている例が多数認められ,火砕流,土石流,防災工事などに伴って,生産基盤である農地を失うことにより,離農が加速されていることが窺えた。結局,被災世帯の分裂および都市近郊農村社会における就業構造の変貌が恐らく不可逆的に加速し,さらには避難行動の延長として居住地の分散移動が生じた結果,空間的なまとまりが認められた地域社会が質的および空間的に再編成され,新たな地域社会が形成されてきた。地域社会の再編を促す触媒として,今回の火山災害を位着付けることができると現時点では考えている。
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