これまで日本で発生した雪泥流災害を新聞記事データーベース等から選択抽出し、それらについて現地調査を進め実態を明らかにしてきている。これまで得られた知見を以下に記す。 雪泥流災害には、豪雪年に発生するタイプ(昭和56年3月の新潟県牧村・飯田川の事例ほか)と暖冬少雪年に発生するタイプ(平成2年2月の長野県栂池スキー場・から沢の事例ほか)の二つのタイプに発生機構の違いから分けることができることがわかった。 雪が水分を多量に含んだものが雪泥であるが、その水分供給には融雪水量よりも降雨による水量が大きく関与している。従って発生時点までの累計降雨量が、雪泥流発生を決定づける条件となる。昭和42年2月に北海道古平町の稲倉石鉱山で発生した雪泥流は、渓流水が雪崩で堰止められダムアップし、堰を破って雪泥となって鉱山集落を襲い12戸を倒壊させたが、2月という厳冬期に夏の大雨にも匹敵するような100mmを越える記録的な降雨によって発生したことが分かった。 平成2年12月に岩手県松尾村の赤川で発生し、河川工事現場の作業員2名が犠牲となった災害では、雪泥流が土石流などで見られるSuper elevationを起こして流下していたこと、この雪泥流の発生地点の雪は、地吹雪によって短時間に多量に水路に供給されたことなどほかの事例にはあまり見られない状況が明らかになった。 平成7年3月に富士山御殿場口で発生した大規模なスラッシュ雪崩の現地調査では、この雪泥流によって富士山ではあまり例のない多量の土砂移動が起こったこと、その土砂移動に寄与する侵食のタイプとそれらの全体の侵食量に対する割合などについて知見が得られた。
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