研究概要 |
CR-39飛跡検出器の利用は、宇宙空間での線量計測、モノポール探査実験や各種核融合実験にまで広がってきている。本研究では、これら応用のために不可欠な基礎データである水素同位体に対する応答について検討することを主目的とした。 プロトンとデューテロンは神戸商船大学静電加速器を使って直接照射した。放射線防護上イオンビームとしての取り出しが困難であるトリトンについては、京都大学原子炉実験所重水設備において実験を繰り返し、フッ化リチウム薄膜に熱中性子を当て ^6Li(n,t)^4He反応を利用する手法を確立した。これらサンプルの処理段階においては、エッチング処理とピット計測を繰り返して同一のピットを追跡計測する「多段階エッチング法」を採用し、これにより得られる成長曲線から、任意の残余飛程におけるレスポンス関数(エッチ率比vs残余飛程)を評価した。 以上の結果より、3つの水素同位体のレスポンス関数を評価した。特に、これまで信頼のおける結果がなかったトリトンのデータが得られたことは、本研究における大きな収穫であった。これらを比較すると、飛程終点付近の形状に顕著な差異が観察された。このことから、CR-39を用いた水素同位体の識別計測が可能であることが明らかとなった。 さらに、特殊な同位体効果の存在を調べるために、得られたレスポンス関数を粒子エネルギー(E)、核子当たりの粒子エネルギー(E/n)、粒子速度(β)、LET200、阻止能の関数として包括的に評価した。この結果、核子当たりのエネルギーまたは粒子速度に対するエッチ率比のデータから、実用的には誤差範囲内で同位体に関係なく同一であるとしても良いことが確認できた。しかしながら、データはプロトン、デューテロン、トリトンと質量の順に微妙に変化していると見ることもできる。今後、より詳細な実験から同位体効果に関する知見が得られるものと期待される。
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