氷床コアから過去の気候・環境を復元をする際に最も重要なことはコアに時間スケール(年代決定)を刻むことである。一般にその方法は層位学的方法、示準層の検出と放射性同位体や氷の流動モデルを用いるもの等がある。示準層の検出は核爆発や大規模火山eventであり、放射性同位体はコア試料が量的に限定されるために連続した年代決定の方法には不的確である。一方、層位学的方法はδ^<018>や化学不純物の季節変動を抽出して年代決定するもので、詳細に年代を刻み込む方法として的確であるが、δ^<018>は年間堆積量が多いグリーンランドなどの地域に限定され、南極内陸部などの堆積量が十数cm以下の所では、温度勾配下に置かれた雪の昇華凝結変態(霜ざらめ化)のために降雪毎の秩序あるδ^<018>の分布は乱れてしまうので、この方法は適用困難である。しかし、化学不純物は蒸気圧が酸素よりも大きいため、雪の「霜ざらめ化」に影響されないことが予想されていた。実際に、日平均気温が-5〜-30℃での自然積雪の「霜ざらめ化」による雪の酸濃度の測定によると、弱酸ほど再飛散しやすいようである。この観測では、SO_4^<2->やNO_3^-イオン等は元の存在分布を大幅に変えない結果が得られたが、これらの化学不純物が霜ざらめ化の度合でどの程度の乱れを生ずるか、それを実験的に究明することがコアに時間スケールを的確に刻む方法として取り入れるために必要である。 上記の目的を達成するために、本研究1年目に当たる本年度は化学不純物を任意量含む人工雪試料の作製とそれを挟む自然積雪の試料ブロックに任意の温度勾配を与える装置の作製を行った。人工雪は不純物イオンを入れた水滴を急冷して多量の氷粒子を作って作製した。装置は、雪試料の上面と底面を-40±0.1℃まで任意の温度で制御でき、高さ30cmの試料を定常な温度勾配下に置けるものとなった。本実験では、不純物を挟む雪には密度約300kg/cm^3の一様な構造を持つ自然雪が最適なので、今冬採取して本実験が開始される。
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