研究概要 |
環境中の硫黄の動態を追跡する手段として、同位体比に注目し、各種環境試料中の硫黄同位体比の測定を行ってきた。本研究では、人為発生源の主因である石炭および石油中の硫黄同位体比の測定を行い、大気環境にどのように反映されているかを考察するために、東京および新潟市の夏と冬の同時期に大気のサンプリングを行い、浮遊粒子状物質および大気について、硫黄同位体比の測定を行った。以下その結果について述べる。 1 石炭における硫黄同位体比:試料は日本、中国、インドネシア、米国、オーストラリアなど産地のことなる21種類を用いた。硫黄同位体比はデルタ値で+24.9〜-0.1パミルに分布していたが、2種類を除いてプラスの値を示し、概して日本および中国にデルタ値の大きいものが多く、オーストラリアにデルタ値の小さいものが見られた。 2 石油における硫黄同位体比:試料は日本、中近東、米国、サウジアラビア、マレーシア、中国、インドネシア、メキシコなど世界各地で産出した20種類を用いた。そのデルタ値は+20.2〜-10.7パミルであったが、デルタ値の多くはマイナスの値を示しており、石炭に比べてデルタ値は小さかった。 3 大気環境における硫黄同位体比:東京の夏と冬のデルタ値は、(1)浮遊粒子状物質および(2)大気がそれぞれ(1)+3.7,+3.8パミルおよび(2)-1.0,-1.3パミルであった。両者とも季節の影響は見られなかったが、大気の硫黄は石油に由来することが反映されている。一方浮遊粒子状物質のデルタ値が大気に比べて大きいのは、石炭のフライアッシュが取り込まれているためと思われる。新潟市の夏と冬の浮遊粒子状物質は+4.7,+5.9パミルで東京に比べてやや大きいのと、冬にさらに大きくなっているのは、大陸からの石炭燃焼生成物の移動で冬は特に季節風の影響が強く現れているものと推察される。以上、硫黄同位体比のデルタ値からみて、現在大気中の硫黄の発生源の多くは石油に由来するが、日本海側での石炭の影響も観察された。
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