本研究では、これまで当研究室での科研費による研究成果をさらに発展させた。酸性化の起因物質ともなる環境中の硫黄化合物の発生源を識別し、その動態を解析するための基礎的研究として、主な人為発生源である石炭と石油の硫黄同位体比測定を行った。さらに、硫黄の発生源を識別する一助として、セレンの定量も行った。大気中浮遊粒子状物質および大気中二酸化硫黄に、発生源の硫黄がどのように反映されているかを見るために、これら環境試料の硫黄同位体比と発生源である石炭・石油および自然発生源の多くを占める海水硫酸塩の硫黄同位体比との照合を行い、石炭・石油・海水硫酸塩由来の識別の可能性を見出だした。つまり大気中硫黄は石油由来、大気粉塵中の硫黄は石炭由来であることが観測された。これまで大気中二酸化硫黄の同位体比測定には、エアサンプラーを通した空気を吸収液に吸収していたが、約50日のサンプリング期間には吸収液の補充、寒冷期の凍結などを招き改良が必要と思われた。短期間に効率よくサンプリングを行うために、活性炭素繊維などを用いた捕集法を開発した。また浮遊粒子状物質の元素分析に赤外分光分析を応用し、硫酸イオン・アンモニウムイオンなど数種の無機イオンを同定した。今後はさらに発生源として硫化力ルボニル、硫化ジメチルの発生機構の解明および硫黄同位体比について詳細な研究を行い、環境における硫黄の動態解析を発展させるとともに、環境の「酸性化」の原因を明確にして行く計画である。
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