アポトーシスは多細胞生物が持っている本質的な機構であり、細胞の種類およびおかれている環境によって複数の経路が働いていることが証明されている。しかしながら、放射線誘発アポトーシスに関しては、古くから研究されてきたにも拘わらずほとんど機構解析が進んでいないのが現状である。そこで本研究では、放射線誘発アポトーシスに高い感受性を示すマウス胸腺リンパ腫由来細胞(3SB細胞)に突然変異剤を処理することにより放射線抵抗性細胞を分離し、これらの変異細胞を用いて放射線によるアポトーシス誘導に関与する遺伝子を分離・同定することを試みた。本年度は、変異細胞の分離を中心に研究を行った。 まず、3SB細胞に突然変異誘発性アルキル化剤(ethylmethanesulfonate: EMS)を処理し、X線を繰り返し照射することにより72種のクローンを分離した。さらにこれらのクローンをX線で選択濃縮した結果、12種のアポトーシス抵抗性クローンを得ることができた。このうち最も抵抗性を示したクローン(1B1細胞)について再びEMS処理を行い、さらに高線量のX線を照射することにより安定な二次クローン(1B1C4細胞)を分離した。3SB細胞にX線を照射するとアポトーシスに特徴的な断片化したDNAが出現したが、1B1C4細胞ではこのようなDNAの分解反応はほとんど観察されなかった。しかし、1B1C4細胞に紫外線やグルココルチコイドを処理すると、3SB細胞に見られたような速やかな細胞死が起こり、アポトーシスに対して同様の高い感受性を示した。以上の結果は、本研究で分離された1B1C4細胞は電離放射線に特異的な放射線抵抗性変異細胞であり、放射線によるアポトーシス誘導機構の解析に格好の材料を提供することを示唆する。
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