アポトーシスは、放射線や各種化学薬剤によって誘導される多細胞生物が持っている本質的な機構である。そこで本研究では、アポトーシスに高い感受性を示すマウス胸腺リンパ腫由来細胞(3SB細胞)より放射線抵抗性細胞を分離し、これらの変異細胞を用いて放射線によるアポトーシス誘導機構について解析した。 3SB細胞に突然変異誘発剤(EMS)を処理し、X線を繰り返し照射することにより12種のクローンを分離し、さらに選択濃縮あるいはリクローニングすることにより、5種の安定なX線抵抗性クローンを得た。3SB細胞はX線感受性が高く、5Gy照射後8時間で死細胞が出現した。しかし、最も高い抵抗性を示したひとつのクローン(1B1C4細胞)では24時間経過しても死細胞は観察できなかった。このことはアポトーシスに特徴的なDNAの断片化反応おいても確認された。既に、がん抑制遺伝子p53が放射線誘発アポトーシスに関与していることが報告されているので、5種のアポトーシス抵抗性細胞についてp53遺伝子のホットスポット領域における変異の有無を調べた。まずRT-PCR-SSCP解析を行ったところ、3SB細胞と3種の抵抗性細胞では正常マウス細胞と同じDNA泳動パターンを示したが、1B1C4細胞と1D5-8細胞では変異の存在が示唆された。特に1B1C4細胞では、PCRダイレクトシークエンス法によりコドン238においてセリンからフェニルアラニンへの変異が検出されたことから、p53の機能の欠損が示唆された。実際、ウエスタンブロティングで見るかぎり、1B1C4細胞は長寿命の変異型p53蛋白質を産生しており、またp53特異的なDNA結合配列への結合能も失っていることがわかった。一方、他の4種の細胞では正常型のp53蛋白質を産生するので、放射線誘発アポトーシスにはp53に依存する経路と非依存性の経路があることが明らかとなった。
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