我々の研究室では、マウスm5S細胞に低線量の放射線を予め照射すると、その後の高線量の放射線照射による染色体異常や突然変異生成の誘発が低下し、細胞致死効果も減少することを見いだした。この突然変異頻度の低下がどのような機構によるものかを明らかにすることは、放射線による適応応答の機構を解明する上で重要である。現在m5S細胞での突然変異の指標としてはヒポキサンチンフォスフォリボシルトランスフェレース(HPRT)遺伝子に生じる突然変異による6チオグアニン(6TG)抵抗性を用いている。マウスHPRT遺伝子はマウス細胞の突然変異の指標として多用されているが、エクソン部分の塩基配列は報告されているものの、イントロン領域の塩基配列は明らかにされておらず、電離放射線によって誘発される欠失突然変異の解析には十分ではない。そこで本研究ではまずマウスHPRT遺伝子の塩基配列を決定している。マウスHPRT遺伝子は、全長33kb、9個のエクソンからなる遺伝子であるが、これまでに5個のエクソンを含む領域の塩基配列を決定した。部分的に明らかにされているマウスHPRT遺伝子のエクソン-イントロン領域の配列にいくつかの誤りがあることが判明した。現在残りの部分の塩基配列を決定している。同時に、m5S細胞から6TG抵抗性突然変異体クローンの分離を行った。自然突然変異、2cGy照射細胞群、6Gy照射細胞群、2cGy照射し5時間後に6Gy照射した細胞群の各々から独立の変異体クローンを分離した。これら変異体クローンの6TG抵抗性とHAT感受性の確認を行い、自然突然変異体11クローン、2cGy照射群から10クローン、6Gy照射群から13クローン、2cGy照射後6Gy照射細胞群から10クローンの突然変異体を得た。今後突然変異体クローンの数を増やすとともに、マウスHPRT遺伝子の塩基配列決定後、それを用いて多量PCR法による解析のための実験系を確立し、得られたm5S細胞突然変異クローンについて検討を行う予定である。
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