研究概要 |
近年、水域環境には微量の化学汚染物質が存在していることが知られている。しかし従来の機器分析による水質の化学的汚染指標のみでは、こうした毒性を評価することは難しい。これまで我々はニシキゴイ肝膵臓中のメタロチオネイン(MT)量、チトクロームP450量、ヘムオキシゲナーゼ(HO)活性、及び各種薬物代謝酵素活性を測定し、これらの総合的な考察から水質汚染の状況を反映できることを示唆してきた。本研究では魚類MT並びにP450アイソザイムの一つのCYP1AをmRNAレベルで調査し、この結果が環境汚染を知る手がかりと成り得るか検討した。実験魚として入手易い金魚を使用し、環境化学物質として、カドミウムC(d)、イソサフロール(ISA)及び界面活性剤を用いた。 Cdにより金魚肝膵臓、鰓ともにMTmRNAを誘導したが、鰓は肝膵臓よりもより低濃度で誘導した。またCYP1AmRNAの誘導は肝膵臓では若干認められたものの鰓では使用した濃度での誘導は認められなかった。一方、ISAは肝膵臓、鰓ともにMTmRNAの誘導は認められなかったが、CYP1AmRNAの誘導は肝膵臓、鰓ともに誘導した。この時、鰓は肝膵臓よりもより低濃度で誘導を認めた。さらに、ISAとCdを併用暴露させたところ、MTmRNAの誘導は肝膵臓、鰓ともに単独曝露とほぼ同様の結果を示し、CYP1AmRNA誘導はCdを併用しても肝膵臓、鰓ともにISA単独曝露と差は認められなかった。界面活性剤(SDS,Emulgen913)ではMTmRNA、CYP1AmRNAともに誘導され、肝膵臓より鰓への影響がより大きかった。 本研究の結果から、魚類の薬物代謝酵素の動態をmRNAで評価し、環境汚染物質の水域環境の指標に用いようとするとき、代謝の主な器官である肝膵臓のみではなく鰓も指標として非常に有用であることが明らかとなった。特に鰓でのmRNAの動態は肝膵臓より低濃度で惹起し、環境水中の汚染物質のように非常に低濃度の汚染をより迅速に評価できることが明らかとなった。また経時的な検討結果から、短時間での化学物質の曝露試験には鰓、長時間での試験では肝膵臓のmRNAの結果を用いることが有用であることが示唆された。
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