降水を通じた栄養塩類の供給が浅水域生態系に与える影響を把握し、浅水域生態系の持つ環境保全機能を評価することを目的とした二年間の研究計画の第一年次として以下の実績が得られた。 1)1995年4月より11月にかけて降水を採取し、窒素および硫黄成分をはじめ溶存成分の分析を行ない、名古屋市の過去(1984年度)のデータと比較して、近年の都市域の降水成分の特性を解析した。その結果、10年前と比較して窒素と硫黄の比率(NO_3^-+NH_4^+)/nss-SO^4^<2->の上昇(モル比で2.0から2.5)が明らかであり、都市域における硫黄酸化物の放出低減と窒素酸化物の放出増加傾向が降水に反映しているものと考えられた。 2)都市域の降水の浅水域生態系に及ぼす影響を見るために、名古屋市周辺部に位置する池沼において窒素および硫黄の収支に関する調査を行なった。池沼の流水水域周辺にヨシ帯などの湿地が存在する場合は、流入水の硫酸イオンが湿地で捕捉され、池沼内への流入が抑制されていて池水の硫酸イオン濃度が恒常的に一定濃度に維持されていることが明らかとなった。 なお、降水、池沼水、および土壌間隙水等のイオン成分分析において、本研究助成により備品として購入したイオンクロマトグラフ用オートインジェクターは分析の効率化のために極めて有効であった。 3)貧栄養な浅水域に対する降水を通じた栄養塩の供給の影響を見るために釧路湿原のデータの解析を行った。その結果、釧路湿原において地下水系から栄養塩の供給を受けない高層湿原では夏季に硫酸イオンが枯渇するために、降水を通じた硫黄成分の供給が湿原生態系に重要な意味を持つことが明らかにされた。
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