降水を通じた栄養塩類の供給が浅水域生態系に与える影響を把握し、浅水域生態系の持つ環境保全機能を評価することを目的とした二年間の研究計画の第二年次として以下の実績が得られた。 1)都市域の降水の浅水域生態系に及ぼす影響を見るために、名古屋市周辺部に位置する池沼において窒素および硫黄の収支に関する調査を行なった。池沼周辺の湿地の存在により、硫酸イオンが捕捉され、池水の硫酸イオン濃度は恒常的に一定濃度に維持される。降水からの硫酸イオンの供給は流入水および池水の硫酸イオン濃度から見て問題にならないが、降水中の窒素成分に関しては硝酸+アンモニウムイオン濃度が一雨で10mgN/m^2を越える場合もしばしば観測され、このような場合水深の浅い湿地では重要な栄養塩供給過程となることが示された。 2)浅水域の微生物特性を把握するために、釧路湿原における窒素代謝微生物群の分布および名古屋市安田池湿地の脱窒菌種について調べた。釧路湿原では、高層湿原で窒素固定菌が他のグループより優占し、低層湿原で窒素固定菌が検出されずに好気性従属栄養細菌および硝化-脱窒菌グループが優占し、ハンノキ林ではすべての窒素代謝微生物群が存在した。安田池湿地の脱窒菌種の調査では、シュードモナスの酸化型グループと酸非生成型グループが優占し、水域型と土壌型の両者の特徴を示すことが明らかとなった。 3)湿地における窒素循環の特性は以下のようにまとめられる。降水による窒素栄養塩の供給が一時生産を促進し、植物体から根圏への有機物と酸素の供給が活性化し、降水による湿地の還元状態の発達により、有機物分解→アンモニア化成→硝化→脱窒という一連の窒素循環過程が活性化される。湿地のこのような窒素循環の特性を把握して自然の湿地・池沼を適切に管理・保全することが、地域環境・地球環境保全のためにも重要である。
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