降水を通じた栄養塩類の供給が浅水域生態系に与える影響を把握し、浅水域生態系の持つ環境保全機能を評価することを目的とした二年間の研究の結果、以下の成果が得られた。 (1)都市域の降水の浅水域生態系に及ぼす影響を把握するために、1995年に名古屋大学において降水の採取・分析を行ない、名古屋市の過去のデータと比較対照した。その結果、特に近年の降水特性として硫黄成分の減少と窒素成分の増加が明らかであり、降水を通じた貧栄養水域の富栄養化が問題となることを指摘した。 (2)硫黄・窒素循環過程における浅水域の特性を解明するために、名古屋市守山区の安田池と隣接する湿地において、硫黄・窒素の収支および有機物分解に関わる微生物活性、および脱窒菌の種構成を調査した。その結果高濃度の硫黄成分(硫酸イオン)の流入や降水による窒素成分(硝酸+アンモニア)の負荷に対して、湿地が極めて大きな緩衝作用を持ち、池沼への負荷量軽減に大きな役割を果していることが明らかとなった。 (3)貧栄養な浅水域に対する降水を通じた栄養塩供給の影響を見るために、釧路湿原においてメタン、亜酸化窒素、水素などのフラックス調査とともに窒素代謝微生物群の調査を行なった。その結果、地下水系から栄養塩の供給を受けない高層湿原では夏季に硫酸イオンが枯渇するために、降水を通じた硫黄成分の供給が重要であることが明らかにされた。窒素成分については、窒素固定菌が高層湿原に存在するが、低層湿原では存在しないことがそれぞれの湿原の栄養環境を示していることが明らかとなった。 (4)浅水域生態系は、硫黄・窒素の循環過程において、流入や降水負荷に対する緩衝系として栄養塩流出を抑制する重要な役割を果たしており、自然の湿地・池沼の適切な管理・保全が重要であることが指摘された。
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