研究概要 |
湖沼生態系におけるかび臭物質産生ラン藻の異常発生における鉄の役割の解明を目的に,ラン藻の増殖能力,即ち鉄吸収能に及ぼす鉄キレートの影響を検討するために,鉄とのキレートの安定度が異なる6種のキレート剤EDTA,DTPA,EDDHA,HBED,DESF(微生物シデロフォア),BPDSの鉄錯体を用いて5種のラン藻の培養実験を行った。ジオスミンを産生するOscillatoria brevisはDTPAを鉄濃度に対して15倍モルまで過剰に添加しても良好な増殖が認められた。さらにEDDHA及びHBEDでは鉄濃度に対して16倍モル及び5.6倍モルまで過剰に添加してもO.brevisの増殖が認められた。従って高い安定度を持つFe(III)錯体を形成するキレート剤の過剰を加えても,O.brevisは鉄を吸収できた。またO.brevisは安定な2価鉄キレートFe(BPDS)_3が生成した状態でEDTA,DTPA,EDDHA又はHBEDを添加した場合でも増殖は阻害されなかった。Fe(III)-DESFを鉄源として,EDDHAあるいはHBEDを過剰に添加してもO.brevisの増殖は阻害されなかった。こうしてO.brevisは細胞表層に強力なキレート形成基を持っており,Fe(III9-EDTA,Fe^<II>(BPDS)_3,コロイド鉄,酸化鉄(Fe_2O_3,Fe_3O_4),Fe(III)-DESF,スポンジ鉄,鉄粉,クエン酸鉄(III),リン酸鉄(III)のような様々な形態の鉄を鉄源として利用し,吸収できることが明らかになり,更に安定なFe(III)キレートを形成するキレート剤が過剰に存在する場合でもO.brevisの増殖が阻害されない強力な鉄吸収能を有することが判明した。O.vrevisは鉄吸収の機能面において幅広い環境変化に適応しており,かび臭物質産生ラン藻Oscollatoria tenuis,Phormidium tenue(2-メチルイソボルネオール,MIBを産生)Anabaena macrospora,Anabaena spiroides,O.brevis,(ジオスミンを産生)の中で最も優れた鉄の吸収能を有しており,高いMIB産生能を有するO.tenuisは最も弱い鉄吸収能を有することが明らかになった。
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