シガトキシン類は南方海域で起こる食中毒シガテラの主要原因毒として構造が明らかにされたポリエーテル化合物であり、その特異な構造と極めて強力な活性から、現在最も注目されている海洋天然物の一つである。シガトキシンの極めて強力な毒性は、細胞膜の電位依存性ナトリウムチャネルの特異的部位に結合してチャネルを強力に活性化することにより発現するとされている。しかし、その特異的結合に要求される化学構造上の要因に関しては十分な理解が得られていない。本研究では、シガトキシンのナトリウムチャネルに対する高い親和性に必要な構造要因を明らかにすることを目的とした。すなわち、シガトキシン右半球に相当するG〜M環部分およびその類縁体の合成を行い、ナトリウムチャネルに対する結合活性の構造活性相関を行い、シガトキシン右半球に集中する官能基の結合活性に対する寄与を明らかにすることを目的とした。 1.シガトキシンGH環部の立体選択的合成:GH環部合成において、G環上の水酸基の導入とそれに隣接する四級炭素の構築が合成上の問題点となる。糖質化合物を出発原料にして、不斉ヒドロキシル化反応と分子内7-endo選択的エポキシ開環反応によるG環構築を鍵反応として、GH環部フラグメントの立体選択的合成に成功した。 2.G〜M環部モデルの合成:すでに立体選択的合成法を確立しているJKLM環部フラグメントから、F環を6員環としGHI環上の置換基を省略したF〜M8環性モデル化合物の合成を行った。 3.ナトリウムチャネルに対する結合活性評価:シガトキシンの結合性が確立されているラット脳シナプトソームへのトリチウム標識ブレベトキシンを用いた結合阻害実験において、2.で合成したG〜M環部モデルフラグメントによる結合阻害はμMの濃度では観測されなかった。
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